繰り返す泡沫

 

 

地図を広げた。

 

 

 

 

ここはどこだろう、どうやら持っている地図は全く役に立たないようだ。

懐かしさがあるが同時に違和感を覚えた。

一体いつからここにいるのだろう。

 

 

道を知っているように足が動く。

やがて確かに見たことがある場所に着いた。

 

4つの施設を繋ぐ、かなり大きな歩道橋のような場所。

 

 

 

 

遠くから声が聞こえる、徐々に鮮明になり音がはっきり聞こえた。

 

 

「ここにいたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな部屋にいた。

 

 

見たことも無い装置に知らないのに大切な人が入っている、眠っているようだ。

 

看護服の女性が近づいてきてスマートフォンのような端末を渡してきた。

画面には氏名、生年月日、職業を入力する欄があったが、持っているだけで、勝手に入力されていく。

 

知らない名前、見当違いな生年月日、聞いたことも無い職業名。

 

 

誰だ。

 

 

 

 

 

 

目の前で大切な人は眠ったまま。

 

誰なのか知らない、ただ感覚で理解している人。

 

 

声をかけてみる、もちろん返事はない。

病室のプレートみたいなものに名前が書いてあるようだ。

 

知らない名前。

 

 

そのまま立ち尽くしたまま眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

何時だろう。

 

 

 

外は暗そうだが認識が出来ないほどではない、気づいたらその部屋を後にしていて家に着いた。

 

 

 

「おかえり」

 

 

 

 

 

 

先程まで装置で寝ていたはずのあの子が部屋にいる、さっきの声の主だ。

疑問にも思わなかった、その人がいるとなんだか安心するようで心地いい感覚がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外へ出た、朧気な記憶で確かに歩いたことがあると思う道を歩く。

 

 

 

 

 

この道は地図に乗っているようだ、目的地だと思う場所に向かって歩く。

 

 

 

だんだんと北へ進んでいることが分かった。

 

 

着いた場所はとてつもなく大きな旅館。

マンモス校の修学旅行なら同時に10校は受け入れられそうなほど大きな旅館。

 

 

 

 

どの部屋でも使っていいそうだったので2階の一室を選んだ。

 

準備が終わるまで旅館の中を歩いてみた。

 

不思議と誰ともすれ違うことは無かった。

 

 

 

気づいたら選んだ客室に着いた、扉を開けると既に靴が1足あった。

 

部屋に入る。

 

布団が2組敷いてあるが誰もいない。

 

 

 

 

 

「つかれた?」

 

 

 

あの声だ、確かにたくさん歩いたし休みたい。

 

 

あの子とはまた明日話がしたい。

 

 

 

 

 

 

もう真夜中みたいだ、何も見えなくなっている。

 

何も見えないのに声が聞こえる。

 

 

 

 

「また会いましょう」

 

 

ああそうか。

 

呟いて理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し眩しい。

 

 

雨の音がする。

 

 

そういえばあの子は、顔が思い出せない、声は…?

 

 

 

 

最後の瞬間、理解したことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

次はいつ会えるのだろう。